Introduction


「Re-Living Conditions 2001→2022」に向けて


 前回の「Living Conditions」企画は、2001年3月30日・31日の「学生デザインレビュー福岡」に参加したゲスト審査員により卒業設計展に並行して開催されたパラレル・シンポジウムである。当時の企画詳細とイベント全容をその後にまとめた記録誌の冒頭は「フラットソサエティとリビングコンディション」なるテーマ解題から始まっており、表紙には、ニューヨーク・マンハッタンの超高層群を背景にした水田で田植えをする農家のコラージュという、メトロポリスとカントリーサイドが重ねあわされた何やら意味深な画像が付されている。周知の通り、その年の9月11日、記録誌のカバーに使われていたマンハッタンのワールドトレードセンターが、世界同時多発テロによって倒壊し、我々の眼前から消失した。テーマ解題のくだりにも、20世紀のアメリカを象徴するビルディングタイプとしての超高層、その代表格であるWTCが「よもや現実世界で映画のように、あるいは映画を超えた超現実として破壊されるシーンを、いったい誰が想像しえただろうか...『時代の潮目』が大きく変わる瞬間を身体的に共有したのではなかろうか」とある。

 それから 20年余の 2022 年 2 月24日、ロシアのウクライナ侵攻という、再び「よもや現実世界で映画のように...」の衝撃的な映像がポストコロナ禍の「Living Conditions」に備える我々の眼前に飛び込んできた。歴史を省みると、人類は「疫病と戦禍」ののっぴきならない事態に、古代・中世・近世・近代を通じて数多の危機に遭遇し、その度ごとになんとかクライシスを乗り越えてきた。ギリシャの歴史家トゥキディデスの記述に見るスパルタ・アテネ戦禍における疫病とポリス崩壊の史実を紐解くまでもなく、都市の成立は、即ち、疫病の揺籃であり、今回のパンデミックがとりわけ特別なケースではないことは歴史に明るい。一方で、ポスト・パンデミックがエポックメイキングなイノベーションを牽引することもまた史実に拠る。急速な人口減少と労働力不足、さらに気候変動と食糧難が生じ、社会制度が大混乱したという記述は、今回のコロナ災禍のことではなく、中世後期のパンデミック、黒死病のそれであり、帰結として社会空間の大転換、即ち、「Renaissance = 再生・復活」に至ったのである。「疫病と戦禍」が 2001年と同様に『時代の潮目』の転向であるとしたら、我々を取り巻く社会空間と建築の関係は、直接・間接にどのような影響を受け、またどう進化するのか。今回の「Re-Living Conditions 2001→2022」では、2001年の企画に参加したゲスト全員で、2001 以降の変遷と次の時代の建築や教育について多層的な議論を展開したい。